
この草の帯が太くなった年、斜面が崩れます。
先触草は、高さ40〜60cmの多年草。細長い披針形の葉は表が濃い緑、裏がびろうどのような銀白色で、赤褐色の細い茎に互生する。花は目立たず、淡い黄緑色の小さな穂を茎の先にひとつ立てるだけだ。この草が特異なのは、生える場所の選び方にある。台湾北部の谷では、地中十数メートルの深さに滑り面があり、斜面全体が一年に数センチずつ谷へ動いている。地表は静止して見えるが、滑る面の真上では土が引き伸ばされ、髪ほどの細い裂け目が絶えず開いては閉じている。先触草の種子は硬い殻をもち、土の中でただ待つ。殻が割れるのは、この裂け目が開いて種子の両側の土が左右へ引かれ、殻に張力がかかった瞬間だけだ。雨でも温度でも光でも割れない。引かれなければ、種子は何十年でも眠ったままでいる。だから先触草は、地中の滑り面をなぞるように、斜面を横切る一本の細い帯になって現れる。滑りが速まった年は裂け目が増え、帯は幅を増して濃くなる。滑りが止まった年は新しい芽が出ず、帯は数年かけて薄れて消える。霧の朝、葉裏の銀白色がいっせいに風で翻ると、緑の斜面の中で帯だけが白く浮かび上がる。地面の下で起きていることが、地表に線となって描かれている。
PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
この草の帯が太くなった年、斜面が崩れます。
地中で滑っている面の真上にだけ、この草は芽を出すからです。
台湾北部、台風の雨をくり返し受ける深い谷の斜面。
地中十数メートルの面が、一年に数センチずつ谷へ滑っています。
滑る面の真上では土が引き伸ばされ、髪ほどの裂け目が開いては閉じます。
先触草の種は、この裂け目に左右へ引かれたときだけ殻が割れます。