
同じ一本の木が、二本に見える年があります。
二葉杉は、高さ20mを超える古いアトラススギの一個体に起こる現象に名づけられた呼び名で、別種ではない。太い灰褐色の幹の根元から低い二次萌芽の枝が立ち上がり、その同じ一本が二種類の葉をつける。一方は短く密な、やや青みを帯びた濃緑の硬い針葉。もう一方は長くまばらな、淡い灰緑色の柔らかい針葉。深く伸びた地下根が乾いた深層の水を探り当てた年ほど、根元の枝は淡く柔らかい葉型を出すと言われる。地上の枝だけを見ると二本の別の木が重なっているように見え、同じ個体だと気づかれにくい。森のあちこちの古木で起こるのに、一本の木では数十年に一度しか二つの姿が揃わない。
PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
同じ一本の木が、二本に見える年があります。
枝ぶりも、葉の色さえ、まるで別の木です。
モロッコ中部、アトラス山脈の高い尾根。
痩せた岩に立つ古いスギの根元から、低い枝が立ち上がります。
その同じ枝に、硬く青い針葉と、柔らかく淡い針葉が同居します。
深く伸びた根が地の底の水を探り当てた年ほど、淡い葉が現れると言われます。
二葉杉は林内の複数の古木で語られるが、発現は常に一本の個体の根元萌芽に限られる。隣接する若木や実生には同じ葉型の変化を認めない。石灰岩の薄い土壌で上層枝が乾燥を受けた年、深根に支えられた低い枝だけが幼木に近い柔らかな針葉を戻すらしい。これは新しい種ではなく、老木の局所的な若返り反応として見るのが最も自然である。
淡色の葉をつけた枝には、観察期を通じて雄花序も球果も見つからなかった。成熟した球果は通常の高枝にのみ生じ、風媒による繁殖は周囲のアトラススギと変わらない。したがって二つの葉型は繁殖的な分化ではなく、根元枝の水分状態に伴う形態の揺れである。林床に“二葉”の実生がないことも、この現象が個体内に閉じることを示している。
「二つの顔を持つ古木」は日本語への訳名で、アマジグ系の牧畜民は冬雪の少なさと春の湧水を読むしるしとしてこの姿を覚えていたという。尾根の古木が淡い葉を出す年は、積雪よりも地中深くの残水に頼った年であり、下流の水場の減り方とも符合する。伝承の“地の底の水の記憶”は比喩だが、深根性と乾燥年の萌芽反応をよく捉えている。