
一度刻まれた曲がりは、二度と消えません。
猿梯蔓は、ボルネオ島の低地熱帯雨林に育つ大型の木質つる(リアナ)。茎はふつうの丸い幹ではなく、片側だけが強く肥大する偏った二次成長によって、幅六センチほどの平たいリボン状の帯に育つ。若いつるは支えを探して左右に大きく体をくねらせ、枝や別の幹に触れた場所で足場を固めていく。支えを得た区間では帯は幅広く厚く肥り、支えのない空間を渡る区間では細く締まって伸びる。宿主の木を乗り換えるたびに帯は鋭く折れ曲がり、その角がひとつの節目となって残る。やがて帯は木質化して硬く固まり、一度ついた曲がりは二度とまっすぐには戻らない。こうして一本の蔓は、根元から樹冠まで、登ってきた道のりを曲がりと太さの並びとして体に刻みつけ、樹冠から樹冠へと綱のように渡っていく。実在のハカマカズラやモダマも、帯状に肥大した木質の茎をもつ。

PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
一度刻まれた曲がりは、二度と消えません。
木質の帯は、固まると二度とまっすぐに戻らないからです。
東南アジア、ボルネオ島の低地熱帯雨林。
樹冠から樹冠へ、平たいリボン状の蔓が綱のように渡っています。
猿梯蔓は支えを探して左右に体をくねらせ、足場を得た場所で帯を幅広く肥らせます。
宙を渡った場所では細く締まり、宿主を乗り換えるたびに帯は鋭く折れ曲がります。
縮みが解けきらない薄明の個体では、筒花の口だけが先に開き、砂丘面を低く渡る微風で花粉をこぼす。数分後にはごく小型の地中営巣性ハナバチが訪れるが、結実率は訪花の有無に大きく左右されない。花は他殖の機会を残しつつ、朝の短い湿度を利用した遅延自家受粉で群落を保つものと思われる。
群落は安定した白砂面ではなく、石膏砂が薄く吹き寄せられた風下斜面の肩に限られる。翌季には同じ場所が削られるか埋まり、前年の株跡は追えない。果実は砂色の小さな蒴果で、裂けたのち種子を遠くへ飛ばさず、石膏粒の間に落とす。発芽は秋雨後、浅い硬結層の上に一時的な水膜が残る年だけ多い。
昼の標本では縮みの機構はほとんど失われ、灰緑の細葉と乳白色の花だけが残るため、古い調査票では既知の小型石膏植物に紛れていた可能性が高い。さらに有力な地点の多くは射場境界や閉鎖砂丘に近く、調査は道路沿いの昼間に偏った。レンジャーや早朝の測量員が使った「夜に縮む根」という名だけが、標本番号より先に残った。