Archive of Vanished Flora
標本を呼び出しています…
傾樽 Clinocactus meridianus
Specimen · N°073 · 砂漠

Clinocactus meridianus

道に迷っても、この樽だけは南を指します。

FOUND 31.9°N 113.0°W · 北西メキシコ、ソノラ砂漠の岩がちな斜面  ·  ✝ EX · 最終確認 1987 年

傾樽は、砂漠の岩斜面に単独で立つ、背の低い樽型のサボテン。球状にふくらんだ胴を蛇腹のような太い稜が縦に取り巻き、稜のあいだに黄金色のとげが密に生える。この胴はいつも決まって赤道の側へわずかに傾く。日ざしを強く浴びる赤道向きの面ほど細胞がよく伸び、左右で成長に差が出るためで、傾きの向きはそのまま南北を指す生きた方位磁針になる。雨が降ると蛇腹の稜は水を吸って外へ張り出し、胴はまるく満ちる。逆に日照りが続くと稜は縮んで谷を深め、胴はやせて欠けていく。だから稜のふくらみ具合を見れば、この株が最後に水を得たのがいつごろかを読み取れる。満ちて欠けるその繰り返しを、傾樽は自分の体に静かに刻みつづける。

01

肖像

標本写真 / archival still
傾樽
STILL · 標本写真

「南をさす樽」

この標本に動く記録は残されていません。静止した一枚に、その姿をとどめています。

ARCHIVAL STILLPLATESILENT
Narration · ナレーション音声
0:00 / --:--
02

標本図版

8 枚 · ホバーで拡大
傾樽 plate 1PLATE I
傾樽 plate 2PLATE II
傾樽 plate 3PLATE III
傾樽 plate 4PLATE IV
傾樽 plate 5PLATE V
傾樽 plate 6PLATE VI
傾樽 plate 7PLATE VII
傾樽 plate 8PLATE VIII
03

観察ノート

Habitat · 発見地
北西メキシコ、ソノラ砂漠の岩がちな斜面。日ざしを一日じゅう浴びる南向きの緩い岩斜面に点々と立ち、まわりに大きく育つ木のない開けた礫地にだけ現れる。
Local name · 現地での呼び名
南をさす樽
Folklore · 現地伝承
現地では、道に迷った者は傾樽の傾く先をたどれば里へ戻れるとされ、稜がやせ細った株ばかりが並ぶ谷は水が遠い証として避けられてきた。
04

発見地

Coordinates
31.9°N 113.0°W
北西メキシコ、ソノラ砂漠の岩がちな斜面
05

記録

道に迷っても、この樽だけは南を指します。

赤道を向いた面ほど、強い日ざしでよく伸びるからです。

北西メキシコ、ソノラ砂漠の岩だらけの斜面。

球にふくらんだ胴は、いつも決まって赤道の側へ傾きます。

雨が降ると、蛇腹の稜は水を吸って外へ張り出し、胴はまるく満ちます。

日照りが続けば稜は縮み、胴はやせて欠けていきます。

More分類・学名・語源などの詳しい標本データ
06

分類

分類・標本データ
Scientific name · 学名
Clinocactus meridianus  Y. Aoki, 1984
Taxonomy · 分類
植物界 › 被子植物門 › 双子葉植物綱 › ClinocactalesClinocactaceaeClinocactus › meridianus
Voucher · 標本
AVF-073 · Holotype
Archive of Vanished Flora (AVF)
Conservation · 保全状況
✝ EX — 絶滅 最終確認 1987 年
Collector · 採集
Y. Aoki
1983-02-26
Synonym · 異名
Clinocactopsis meridianus T. Okabe, 1981
Protologue · 原記載(ラテン)
Planta humilis, caule brevissimo, petalis albidis nitentibus, in loco aperto crescens. Typus: 北西メキシコ、ソノラ砂漠の岩がちな斜面. Species iam extincta.
Discovered / Described
1983 / 1984
草丈 Height
5〜15 cm
生活形 Life form
多年草
葉序 Phyllotaxy
互生
染色体数 Chromosome
2n = 16
開花期 Flowering
短い開花期(数日)
送粉 Pollination
自家受粉が主体
基質・pH Substrate
礫質・ほぼ中性
標高 Elevation
300〜1,100 m
07

語源

学名の語源
Clinocactus属名 / GENUS
語源は記録に残っていない
meridianus種小名 / EPITHET
語源は記録に残っていない
08

関連標本

同じ環境の標本

観察記録の追補

再訪と追記
2026-06-24 · 塩殻下の目覚め

掘り返した窪みでは、白い塩殻の直下に薄い灰色の泥層があり、そこだけが指先に冷たかった。予兆草の芽はこの層に沿って並び、孤立して出ることは少ない。遠方の降雨で浅層水の塩分がわずかに下がり、腐植を含む溶存有機物が増すと、硬い休眠種子が同じ窪みで一斉に割れるらしい。

2026-06-24 · ひとつ花の結実

開いた花に訪れる虫は見なかった。葯は花喉の内側へ早く崩れ、花粉は柱頭の粘りにそのまま落ちる。風を待つ構造でもない。短命な一花性は不利に見えるが、冠水前の数日で自家受粉を終え、乾き戻る塩殻の割れ目へ重い種子を落とすなら、むしろ確実な仕組みである。

2026-06-24 · 消える植物の記録

水が地表に届くと、株は倒れるより先に透ける。急な低塩分化と冠水で根元の泥は嫌気化し、肉厚の葉は淡く煮えたように崩れる。数日後には花柄も塩泥へ沈み、標本に残るのは種子だけだ。湖縁を渡る牧畜民や初期測量隊が『咲いたのに採れない草』と記した理由は、この不在の速さにある。

⟵ 標本世界地図
EN