
叩けば、もう戻らない年の音だけが鳴ります。
節封竹は、湿った谷の斜面に株立ちで直立する、中空の稈をもつ竹状の植物。稈は節でいくつもの部屋に仕切られ、節ごとの固い隔壁が内部の空気を密封する。ふつうの竹と同じく稈の中は空洞だが、この竹は年に一節ずつ伸び、そのたびに新しい隔壁が閉じて、その一年の空気を部屋の中に閉じ込める。だから古い株ほど、下の節には何年も前の空気が眠っている。節の外側にはぐるりと浅いくぼみがあり、雨が降ると段々の盃のように上から順に水を溜めていく。乾いた稈を叩くと、閉じた空気の柱が部屋の長さぶんだけ響き、長い部屋は低く、短い部屋は高く、節ごとに音の高さが変わる。パンフルートやマリンバが管の長さで音を決めるのと同じ理屈で、一本の稈が段の数だけの音階を、過ぎた歳月ぶんだけ刻んでいる。

PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
叩けば、もう戻らない年の音だけが鳴ります。
節ごとの部屋に、その一年の空気がまるごと封じ込められているからです。
日本南西部、霧のたちこめる谷の竹林。
この竹は年に一節ずつ伸び、そのたびに新しい隔壁が閉じて、一年分の空気を稈の中に閉じ込めます。
節の外側の浅いくぼみには雨が溜まり、上から順に段々の盃となって水をたたえます。
乾いた稈を叩けば、閉じた空気の柱が部屋の長さぶんだけ響き、長い節は低く、短い節は高く鳴ります。
雪どけから十日ほどの冷えた朝、花はほとんど開ききらず、葯が柱頭に触れる位置で保たれていた。風は強いが花粉の飛散は少なく、送粉者を待つ花には見えない。自家和合性の小花が短い晴れ間に結実し、熟した種子は雨滴に叩かれて花茎の根元へ落ち、玄武岩の割れ目に吸い込まれるのだろう。群落も面ではなく、水の筋に沿う細い帯として現れる。
乾いた斜面で植物体を探すと、見つかるのは葉でも花でもなく、割れ目の縁に残る白い粒状の痕だけである。手帳には長く石灰質の析出、あるいは淡色地衣の初期斑として写されてきたのだろう。開花は雪どけ直後の霧、霙、強風の週に偏るため、標本採集者が到達する頃には地上部は縮み、牧羊者の実用知だけが痕跡を読んでいた。
白い印は、草が水路を知らせるために残すものではない。湧き水がぬるみ、割れ目の湿りが断続的になる頃、吸水根の先端は薄い離層で切れ、基部だけが岩に残る。温まりはじめた玄武岩の裂隙では、根を深く残すほど腐敗菌と凍結融解の損傷を受けやすい。捨てられた根端が乾き、結果として翌年の冷水の通り道を白くなぞるのである。