
土に触れず、霧だけを飲んで枝に咲きます。
雲海蘭は、高さ8〜14cmの着生植物。土に根を下ろさず、苔むした枝に細い根を絡め、流れる霧から水を得る。厚い緑の葉と、淡い藤色の小さな花を、枝から垂れるように咲かせる。
PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
土に触れず、霧だけを飲んで枝に咲きます。
根は地面に届くことが、一度もありません。
アンデスの、雲霧林。
絶えず霧が流れる森の、苔むした枝の上に、雲海蘭は着生します。
厚い緑の葉が、枝から垂れるように広がります。
その間から、淡い藤色の小さな花が開きます。
13.2°S, 71.5°W 付近の東斜面では、急な谷が午後ごとに湿った空気を押し上げ、片岩と砂岩の露頭を越えた冷たい斜面風が樹冠を濡らす。酸性に傾いた薄い土壌の林では地表より枝上の苔層が安定し、雲海蘭の細根はその湿った繊維にだけ深く絡む。土を避ける性質というより、枝の上にだけ発芽床が残る植物と見える。
花は霧の多い年に二、三週間だけ増え、淡い藤色の唇弁は朝霧がほどける短い時間にもっとも開く。訪花者は画面には残らないが、花径と香りの弱さから、小型のハチかハナアブに頼ると推定される。結実後の種子は粉のように軽く、谷風と霧滴の乱れに乗る。ただし発芽は任意の枝ではなく、特定の樹皮菌と厚い苔層が重なる場所に限られる。
雲海蘭が記録から抜け落ちた理由は、稀少性だけでは説明しにくい。株は親指ほどで、開花期は霧の濃い季節の短期間、しかも苔枝の高所に吊り下がる。花を失った乾燥標本では厚い葉と細根ばかりが目立ち、近縁の小型着生ランとして処理されやすい。古い採集票に残る「霧飲み」の名だけが、別物であった可能性を示している。