
咲いた花は、数時間で泥炭に沈んで消えます。
沈み花は、高さ10〜18cmの湿地植物。スポンジ状の泥炭に細い根を浅く張り、線形の緑の葉をロゼット状に広げる。長い細茎の先に、淡い黄色の杯形の花をひとつだけ咲かせる。花は夜明けにひらき、数時間で閉じる。
PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
咲いた花は、数時間で泥炭に沈んで消えます。
翌日には、もう痕跡が残っていません。
スコットランド北部の、泥炭湿原。
水を多く含んだ、酸性の泥の大地です。
夜明け、霧の中で、細い茎の先に淡い黄色の杯形の花がひらきます。
けれど数時間で花は閉じ、やわらかな泥炭がその上を覆います。
開花直後の杯の内側には、露とは別の細い湿りが残る。葯は柱頭に近く、風のない朝でも花粉は内側へ落ちる配置で、主な結実は自家受粉によるものと見てよい。ただ、低水位の朝には微小な双翅目の歩いた跡が花粉面に残り、まれな交雑の通路も閉じてはいない。
閉花後の花柄は単に倒れるのではなく、基部近くからゆっくり屈曲し、子房をミズゴケの毛細水が保たれる浅いくぼみへ戻す。乾いた風の上へ種子を掲げるより、酸性で飽水した表層に果実を伏せる方が、発芽床を選び直す手間を植物自身が省くことになる。
群落は一見まとまって見えるが、花が開くのは年に数度、水位が数センチ下がった翌朝に限られる。昼には杯が閉じ、翌日には花柄ごと泥炭面へ沈むため、採集標本には葉だけが残りやすい。古い地方目録のミミカキグサ類、または小型の湿原性キンポウゲ類の記載に紛れた可能性が高い。