
ふだんは葉に金属をため込んでいます。
器返し草は、高さ25cmほどの湿地植物。細い灰緑色の草状の葉を低く広げ、その葉にはかすかな銀色の金属光沢がある。淡い緑の細い茎の先に、銅色を帯びた淡い薔薇色の星形の小花を上向きにひとつつけ、その中心は深い琥珀色をしている。ふだんこの植物は、酸性湿地の土から吸い上げたアルミニウムを葉にため込み、葉を金属で守っている。ところが花を開く直前の短いあいだだけ、ためた金属を葉から根へ送り返し、花器を金属から守る。そのとき葉の化学組成はまるで別種のように変わり、なぜ貯蔵場所を逆転させるのかは、まだ分かっていない。

PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
ふだんは葉に金属をため込んでいます。
ところが花を開く直前だけ、それを根へ送り返します。
米国アラバマ州、沿岸平野の酸性湿地。
器返し草は、ピッチャープラントの育つ黒い泥炭にだけ根を下ろします。
細い灰緑の葉には、銀色の金属光沢があります。
吸い上げたアルミニウムを葉にため、葉を守って暮らしています。
非開花期の器返し草は、灰緑の細葉を泥炭面に伏せ、周囲のカヤツリグサ類や若いワイヤーグラスに紛れる。花は火入れ後二年目の春、湿った曇天の数日だけ開く。葉を採ればアルミニウム濃度の高い湿地草、蕾前に採れば別種めいた低金属の標本となり、古い採集票が沈黙した理由はそこにある。
開花日の午前、琥珀色の中心には小型のハナバチと湿地性のハエが短く訪れる。蜜は乏しく、花粉だけを目当てにした速い出入りで、午後には柱頭が乾き始める。種子は軽いが遠くへ飛ばず、火入れで露出したスファグナムの切れ目、灰を薄く噛んだ黒泥炭でだけ翌冬に発芽をそろえる。
沿岸平野の古い採草地では、これを returning cup grass、または empty-cup grass と呼んだという。樹脂採取の道沿いや焼かれた湿地を歩く者は、花の前に葉の銀気が鈍ることを知っていた。器を空にして咲くという言い方は比喩に聞こえるが、葉から根へ金属が退く短い相を見た記憶としては妙に正確である。