
最も焦げた芽だけが、翌年まで残ります。
傷選びの星は、高さ10cmほどの低いクッション状の植物。黒みがかった青緑の革質の葉を密なロゼットに広げ、短く枝分かれした茎の先に、淡い琥珀色の小さな星形の花をつける。一株のうち、最も日が当たる側は紫外線で焼け、葉が銅色に変色して傷んでいく。多くの植物が損傷を避けるのに、この植物は逆に、最も傷ついた側の芽だけを翌年の主茎に選ぶ。傷の大きさは、その芽がどれだけ強くDNAを修復できたかの証になる。修復しきった芽だけが残り、礫原の上で年ごとに位置をずらしながら、淡い星形の花を咲かせ続ける。

PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
最も焦げた芽だけが、翌年まで残ります。
傷を避けるのではなく、傷の大きさで選んでいるのです。
アルメニア、ゲガム山地の黒曜石礫原。
黒いガラスの礫が日射を吸い、強い紫外線を照り返します。
傷選びの星は、礫のすき間にだけ根を下ろします。
最も日が当たる側は焼け、葉が銅色に傷んでいきます。
融雪の縁が礫原を横切った直後、花は二、三日だけ開いた。午後には黒曜石礫の照り返しで花弁がしぼみ、乾季の標本では銅色に焼けたロゼットしか残らない。既知の高山性クッション植物の老化株として片づけられた記録が多いのは、このためと思われる。
花には早朝、小型の高山性ハナアブが短く訪れたが、訪花数は株ごとに安定しない。葯と柱頭の距離が狭く、風で花冠が揺れるだけでも花粉が落ちるため、結実の主力は自家和合性にあるらしい。種子は軽く飛ばず、礫のすき間にこぼれたものだけが翌春の湿りを得る。
夏の放牧路から外れた黒曜石礫原では、踏み跡がほとんど残らない。羊飼いは刃や火打石に用いた黒い石の上で、焦げた芽だけが翌年伸びることを覚えていたという。『焦げ芽の星』の名は、花よりも焼け跡を読む土地の目から生まれた呼称である。