
満水のあいだ、この植物は根を持ちません。
引き際岩花は、高さ8cmほどの小さな植物。プールが満水のあいだは根を作らず、オリーブ色の細い葉をロゼットに広げて水面に漂い、淡い黄色の星形の花をつける。乾季の強い日差しで水が蒸発し、水深が決まった高さを下回ったその数時間だけ、赤みを帯びた細い根毛を一気に伸ばして、ピンクがかった灰色の花崗岩へ自らを固定する。固定できる好機は一季にわずか数時間。乗り遅れた株は、次の乾季まで根を持てないまま漂い続ける。
PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
満水のあいだ、この植物は根を持ちません。
固定できる時間は、一季にたった数時間だけです。
ブラジル北東部、カアチンガの花崗岩の丘。
乾季の強い日差しが、岩のくぼみの水を少しずつ蒸発させていきます。
水深が決まった高さを下回った、その数時間。
引き際岩花は、赤い根毛を一気に伸ばして岩へ固定します。
開花は水面に浮く時期から始まるが、花弁が開くころには葯はすでに柱頭へ触れている。外来の送粉者を待つ構造ではなく、水深低下の数日前に閉鎖受粉を済ませる短命花とみるべきである。根毛を岩へ下ろす数時間は、繁殖の開始ではなく、受精後の胚珠を乾いた岩面へ残すための位置取りに近い。
水が消えた皿状のくぼみには、雲母片と粘土の薄い鉱物膜が残る。固定に成功した株はそこで縮み、果皮は裂けずに軟化し、微細な種子だけが粘液で花崗岩へ貼りつく。雨季の最初の流入で流される種子も多いが、縁の微細な段差に残ったものだけが翌乾季の同じ退水線に群落をつくる。
産地の多くは牧場奥の孤立したインゼルベルクで、雨後は近づきにくく、乾いたころには植物体は地衣類の痂皮か小型水草の死骸に見える。花を見られる朝は短く、標本にするとロゼットは収縮して特徴を失う。現地名 flor-da-baixa-d'agua は、水場を移す時期を読む牧人の言葉として残ったらしい。