
水が豊かなときほど、この植物は姿を消します。
鉄離れ花は、高さ12cmほどの林床植物。青みの濃い緑の葉に錆色の葉脈が走り、地面近くに鈍い紅色の筒形の花をつける。乾季に湧水が止まると芽を出し、根の周囲から鉄分を押しのけて身を守りながら育つ。雨季に水が豊かになると、かえって鉄を吸えなくなり、地上にはほとんど姿を見せない。水が足りない時期にだけ、この植物の暮らしは整っていく。
PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
水が豊かなときほど、この植物は姿を消します。
暮らしが整うのは、水が涸れた乾季だけです。
コンゴ盆地北部、森にひらけた鉱物の湿地バイ。
乾季に鉄分の多い湧水が止まると、赤錆色の泥が乾きはじめます。
鉄離れ花は、そのときだけ芽を出します。
根の周りから鉄を押しのけ、身を守りながら育ちます。
赤泥の表面がまだ湿り、湧水だけが途絶えた三日目から七日目に、鉄離れ花はほぼ同じ高さで現れた。掘ると各株の下に米粒ほどの塊茎があり、雨季の葉痕を抱えていた。発生の同時性は種子よりも、この地下器官が水位低下と酸化還元境界の移動を読むためと思われる。
鈍紅色の花筒は地表すれすれに開き、午前より夕刻に花粉の減りが著しい。訪花者を見ずとも、筒口に残る微細な擦過痕から小型の送粉が推定できる。結実後の種子は乾いた泥のひびへ落ち、最初の雨で深く埋もれる。次の乾季まで発芽しないことが、このバイで群落が突然現れる理由である。
このバイは動物観察でよく踏まれるが、雨季の調査では鉄離れ花は地上にない。開花は乾季の十日前後に縮まり、標本化された若株も錆色の脈を失うと若いアカネ科、またはイワタバコ科の林床草本に見える。案内人がリンガラで呼んだ「mai ekauki の紅」は、狩猟路を替える水場の合図で、分類名ではなかった。