
夜にだけ咲いて、朝が来る前に、水の底へ消えていく花があります。
沈燭蓮は、アマゾンの後背湿地(バルゼア)の、流れの止まった暗い水面に浮かぶ巨大な水生植物。直径三メートルに達する円い浮き葉を水面いっぱいに広げ、その間から一夜にひとつだけ花を立ち上げる。花は日没とともに開き、内部に蓄えたデンプンを一気に燃やして自ら発熱する。冷たい夜気より十度ほど高くなった花は、白い花弁を大きく開いて熱とにおいを夜に放つ。初めの夜は白く、翌る夜には花弁が赤みを帯びていく。二晩を咲き切ると、花は太い柄をゆるめて水面から離れ、音もなく水底へと沈んでいく。だから朝の水面には、昨夜あれほど大きかった花の跡も、輪郭さえも残っていない。開いていたのは、日が沈んでから昇るまでの、暗い数時間だけだ。

PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
夜にだけ咲いて、朝が来る前に、水の底へ消えていく花があります。
アマゾンの、流れの止まった暗い水面。
日が沈むと、巨大な白い花がひとつ、自ら熱を持って開きます。
冷たい夜気の中で、その花だけが、ほのかに温かい。
最初の夜は白く、次の夜には赤く染まり、
二晩を咲き切ると、花は柄をほどいて、静かに沈んでいきます。
花は目立つ色ではないが、風の弱い正午前後だけ赤褐色の萼片をわずかに開く。黒曜石の礫面が暖まるころ、小型のハナバチとハナアブが同じ斜面の矮性草本を渡り歩き、その途中でこの花にも触れる。霧や降雹の年には葯が柱頭へ倒れ込み、結実数は少ないが自家受粉で途切れない。
熟した蒴果は裂けても遠くへ弾けず、種子は親株の縁にこぼれるだけである。だが融雪期には、黒曜石片の下を細い水脈が走り、軽い種子を数十センチだけ運ぶ。発芽は黒色礫の下側に細かな火山灰が残り、昼夜の温度差で結露が続く場所に限られるため、群落は斑点状にしか広がらない。
採集時には赤く縁取られた葉の疵が、乾燥標本では数日で褐色に沈み、ただの高山性多肉と区別しにくくなる。花も晩夏の二、三週間だけで、鉱物採集者の多い黒曜石産地では足元の低い株ほど見落とされたらしい。古い包紙の記載にある『焦げたアカザ様草本』のいくつかは、本種だった可能性がある。