Archive of Vanished Flora
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沈燭蓮 Nyctomersa ignifera
Specimen · N°063 · 湿地

Nyctomersa ignifera

夜にだけ咲いて、朝が来る前に、水の底へ消えていく花があります。

FOUND 3.1°S 64.8°W · アマゾンの後背湿地(バルゼア)の、流れの止まった暗い止水面  ·  ✝ EX · 最終確認 1995 年

沈燭蓮は、アマゾンの後背湿地(バルゼア)の、流れの止まった暗い水面に浮かぶ巨大な水生植物。直径三メートルに達する円い浮き葉を水面いっぱいに広げ、その間から一夜にひとつだけ花を立ち上げる。花は日没とともに開き、内部に蓄えたデンプンを一気に燃やして自ら発熱する。冷たい夜気より十度ほど高くなった花は、白い花弁を大きく開いて熱とにおいを夜に放つ。初めの夜は白く、翌る夜には花弁が赤みを帯びていく。二晩を咲き切ると、花は太い柄をゆるめて水面から離れ、音もなく水底へと沈んでいく。だから朝の水面には、昨夜あれほど大きかった花の跡も、輪郭さえも残っていない。開いていたのは、日が沈んでから昇るまでの、暗い数時間だけだ。

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肖像

標本写真 / archival still
沈燭蓮
STILL · 標本写真

「沈む灯(あかり)」

この標本に動く記録は残されていません。静止した一枚に、その姿をとどめています。

ARCHIVAL STILLPLATESILENT
Narration · ナレーション音声
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標本図版

8 枚 · ホバーで拡大
沈燭蓮 plate 1PLATE I
沈燭蓮 plate 2PLATE II
沈燭蓮 plate 3PLATE III
沈燭蓮 plate 4PLATE IV
沈燭蓮 plate 5PLATE V
沈燭蓮 plate 6PLATE VI
沈燭蓮 plate 7PLATE VII
沈燭蓮 plate 8PLATE VIII
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観察ノート

Habitat · 発見地
アマゾンの後背湿地(バルゼア)の、流れの止まった暗い止水面。増水期に本流から切り離されてできた静かな入り江や潟の、鏡のように動かない黒い水の上にだけ浮かぶ。
Local name · 現地での呼び名
沈む灯(あかり)
Folklore · 現地伝承
現地では、黒い水面に白い花が灯る夜は魚がよく集まるとされ、花がいくつ沈んだかを数えて、川がこれから満ちるのか引くのかを読んだと語り継がれてきた。
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発見地

Coordinates
3.1°S 64.8°W
アマゾンの後背湿地(バルゼア)の、流れの止まった暗い止水面
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記録

夜にだけ咲いて、朝が来る前に、水の底へ消えていく花があります。

アマゾンの、流れの止まった暗い水面。

日が沈むと、巨大な白い花がひとつ、自ら熱を持って開きます。

冷たい夜気の中で、その花だけが、ほのかに温かい。

最初の夜は白く、次の夜には赤く染まり、

二晩を咲き切ると、花は柄をほどいて、静かに沈んでいきます。

More分類・学名・語源などの詳しい標本データ
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分類

分類・標本データ
Scientific name · 学名
Nyctomersa ignifera  Y. Aoki, 1988
Taxonomy · 分類
植物界 › 被子植物門 › 双子葉植物綱 › NyctomersalesNyctomersaceaeNyctomersa › ignifera
Voucher · 標本
AVF-063 · Holotype
Archive of Vanished Flora (AVF)
Conservation · 保全状況
✝ EX — 絶滅 最終確認 1995 年
Collector · 採集
N. Drei
1985-04-10
Synonym · 異名
Nyctomersopsis ignifera T. Okabe, 1983
Protologue · 原記載(ラテン)
Herba perennis, rhizomate tenui, foliis linearibus, inflorescentia pauciflora. Typus: アマゾンの後背湿地(バルゼア)の、流れの止まった暗い止水面. Species iam extincta.
Discovered / Described
1985 / 1988
草丈 Height
5〜15 cm
生活形 Life form
多年草
葉序 Phyllotaxy
互生
染色体数 Chromosome
2n = 20
開花期 Flowering
夜明け前〜早朝の数時間
送粉 Pollination
夜行性の小型蛾
基質・pH Substrate
礫質・ほぼ中性
標高 Elevation
200〜1,200 m
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語源

学名の語源
Nyctomersa属名 / GENUS
語源は記録に残っていない
ignifera種小名 / EPITHET
語源は記録に残っていない
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関連標本

同じ環境の標本

観察記録の追補

再訪と追記
2026-06-24 · 晩夏の訪花

花は目立つ色ではないが、風の弱い正午前後だけ赤褐色の萼片をわずかに開く。黒曜石の礫面が暖まるころ、小型のハナバチとハナアブが同じ斜面の矮性草本を渡り歩き、その途中でこの花にも触れる。霧や降雹の年には葯が柱頭へ倒れ込み、結実数は少ないが自家受粉で途切れない。

2026-06-24 · 礫間の散布

熟した蒴果は裂けても遠くへ弾けず、種子は親株の縁にこぼれるだけである。だが融雪期には、黒曜石片の下を細い水脈が走り、軽い種子を数十センチだけ運ぶ。発芽は黒色礫の下側に細かな火山灰が残り、昼夜の温度差で結露が続く場所に限られるため、群落は斑点状にしか広がらない。

2026-06-24 · 標本に残らない疵

採集時には赤く縁取られた葉の疵が、乾燥標本では数日で褐色に沈み、ただの高山性多肉と区別しにくくなる。花も晩夏の二、三週間だけで、鉱物採集者の多い黒曜石産地では足元の低い株ほど見落とされたらしい。古い包紙の記載にある『焦げたアカザ様草本』のいくつかは、本種だった可能性がある。

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