
根を持たない草が、ぶつかった時にだけ咲きます。
筏寄せ草は、根を持たず水面を漂う小さな浮草。淡い緑の葉を放射状に重ね、水面すれすれに平たいロゼットを浮かべる。葉裏の細かな気室が浮力を生み、株はどこにも根を下ろさず、紅茶色の黒水の上をただ流れていく。よどんだ入り江には水面下を走る見えない流れの筋があり、漂う株はその筋に沿って寄り集まり、やがて幾百もの株が組み合わさった筏になる。ふだん花はつけない。ところが流れに押された筏どうしが縁でぶつかり合うと、押し合う圧が触れた株に伝わり、刺激を受けた縁の株だけが小さな淡紫の花を開く。ぶつかり合いがほどけて筏が離れれば花は再び閉じ、咲いていた印はどこにも残らない。だから花が見られるのは、二つの筏が触れ合っていたわずかな間だけだ。

PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
根を持たない草が、ぶつかった時にだけ咲きます。
ふたつの筏が押し合う力だけが、花を開かせる合図だからです。
南米アマゾン、よどんだ紅茶色の黒水の入り江。
根を持たない小さな浮草は、水面下を走る見えない流れの筋に沿って寄り集まります。
幾百もの株が組み合わさり、やがて一枚の筏になります。
流れに押された筏どうしが縁でぶつかると、触れ合った株だけが、小さな淡紫の花を開きます。
三月下旬、坑道口の風がまだ冷たい朝にだけ、花冠の内側へ小型のハナバチが短く潜るのを見た。訪花はまばらで、午後の乾いた風が出るころには花は閉じ気味になる。それでも未訪花の株にも莢は残り、弱い自家和合で保険をかけているらしい。競争相手の少ない礫地では、少数の重い種子を確実に熟させるほうが、花を増やすより理にかなう。
熟した莢は裂けても種子を遠くへ弾かない。粒は黒く重く、蛇紋岩片の間にすぐ落ちる。秋の最初の雨でだけ、泥水に押されて数十センチほど動き、金属を含む褐色土と洗われた灰白色土の境に止まる。翌春の実生が親株の周囲でなく等高線状に並ぶのは、この短い水散布のためと考えられる。
標本にするには時期が悪すぎる。花は春の二、三週間だけで、乾季に入ると葉も銀色の縮れた座布団のようになり、既知の蛇紋岩性ナデシコ類か小型アブラナ類に紛れる。根を掘っても、金属を呑んだ側根はすでに軟化して崩れ、清浄土側の細根だけが残る。旧鉱山という調査地でありながら、名ではなく誤同定として残った可能性が高い。