Archive of Vanished Flora
標本を呼び出しています…
満盃花 Clepsydranthus vergens
Specimen · N°065 · 霧

Clepsydranthus vergens

満ちた花だけが、ひとりでに傾いて水をこぼします。

FOUND 0.4°N 29.9°E · 東アフリカの高地、標高約2800mの雲霧に包まれた尾根の低木林  ·  ✝ EX · 最終確認 2015 年

満盃花は、霧の絶えない高地の尾根に育つ低木で、枝先にこぶし大の球形の頭花をひとつ掲げる。花は硬い革質の珊瑚色の苞が幾重にも重なって深い杯をつくり、内側に雨と霧のしずくを溜めていく。杯の底の澄んだ水には、やがて藻や微小な生き物が棲みつき、小さな水たまりの生態系になる。プロテアの仲間のように厚い苞は水分をよく保つ。水が満ちると花全体の重心が上がり、しなやかな茎の付け根からゆっくり傾いて、澄んだ水を苞の縁からこぼし出す。軽くなった花はまた起き上がり、次の霧と雨を溜めはじめる。満ちては空になるこの動きは自重と茎のしなりだけで起こり、まるで水時計のように繰り返される。

01

肖像

標本写真 / archival still
満盃花
STILL · 標本写真

「満ちる盃」

この標本に動く記録は残されていません。静止した一枚に、その姿をとどめています。

ARCHIVAL STILLPLATESILENT
Narration · ナレーション音声
0:00 / --:--
02

標本図版

8 枚 · ホバーで拡大
満盃花 plate 1PLATE I
満盃花 plate 2PLATE II
満盃花 plate 3PLATE III
満盃花 plate 4PLATE IV
満盃花 plate 5PLATE V
満盃花 plate 6PLATE VI
満盃花 plate 7PLATE VII
満盃花 plate 8PLATE VIII
03

観察ノート

Habitat · 発見地
東アフリカの高地、標高約2800mの雲霧に包まれた尾根の低木林。霧が絶えず、午後にはほぼ毎日のように雨が通り過ぎる、日ざしの弱い斜面にだけ点在する。
Local name · 現地での呼び名
満ちる盃
Folklore · 現地伝承
現地では、満盃花が水をこぼす音が聞こえると午後の雨が近いとされ、この花が一日に何度傾いて空になったかで、その日の霧の深さを数えたと語り継がれてきた。
04

発見地

Coordinates
0.4°N 29.9°E
東アフリカの高地、標高約2800mの雲霧に包まれた尾根の低木林
05

記録

満ちた花だけが、ひとりでに傾いて水をこぼします。

杯のような花に溜まった雨水が、重くなりすぎるからです。

東アフリカの高地、霧の絶えない尾根の低木林。

こぶし大の球形の花が、硬い苞で深い杯をつくり、霧と雨のしずくを溜めます。

水がいっぱいになると、花は重みで静かに傾き、澄んだ水をこぼして、また起き上がります。

満ちては空になるその繰り返しは、まるで水時計のようです。

More分類・学名・語源などの詳しい標本データ
06

分類

分類・標本データ
Scientific name · 学名
Clepsydranthus vergens  K. Brandt, 2012
Taxonomy · 分類
植物界 › 被子植物門 › 双子葉植物綱 › ClepsydranthalesClepsydranthaceaeClepsydranthus › vergens
Voucher · 標本
AVF-065 · Holotype
Archive of Vanished Flora (AVF)
Conservation · 保全状況
✝ EX — 絶滅 最終確認 2015 年
Collector · 採集
Y. Aoki
2011-06-24
Synonym · 異名
Clepsydropsis vergens C. Iwabuchi, 2009
Protologue · 原記載(ラテン)
Planta humilis, caule brevissimo, petalis albidis nitentibus, in loco aperto crescens. Typus: 東アフリカの高地、標高約2800mの雲霧に包まれた尾根の低木林. Species iam extincta.
Discovered / Described
2011 / 2012
草丈 Height
5〜15 cm
生活形 Life form
低木〜小高木
葉序 Phyllotaxy
互生
染色体数 Chromosome
2n = 24
開花期 Flowering
短い開花期(数日)
送粉 Pollination
風媒
基質・pH Substrate
礫質・ほぼ中性
標高 Elevation
2,000〜2,800 m
07

語源

学名の語源
Clepsydranthus属名 / GENUS
anth
vergens種小名 / EPITHET
語源は記録に残っていない
08

関連標本

同じ環境の標本

観察記録の追補

再訪と追記
2026-06-24 · 粘土層の縁

露出した湖底を掘ると、表面の割れた粘土質シルトは指二本ほどで終わり、その下にまだ冷たい細砂層が現れる。遠根草の太い根はこの境界を選ぶように横へ走っていた。上は乾いて割れ、下は塩気を帯びた湿りを残す。深く潜らず横へ逃げる形は、この岸の薄い水脈を追うためのものに見える。

2026-06-24 · 花の短い時刻

花は朝の涼しいうちにわずかに開き、昼前には杯を閉じてしまう。虫の姿がない日にも、古い葯の粉が同じ花の柱頭に落ちているのを見た。遠く離れた芽が同じ根から出るなら、他株との交配はまれでよいのだろう。乾燥年の花は種を増やすというより、古い根が途切れた時の保険として働くらしい。

2026-06-24 · 消える群落のしるし

枯れた花の下には軽い種子が少数残り、次の冠水で泥に練り込まれるほど薄い。水が戻れば地上部は崩れ、芽の位置を示すものは残らない。それでも湖岸の漁撈と放牧を行う人々は、この花の散り方で水の低い年を読む。花が広く出た平坦面は、しばらく舟を寄せにくく、家畜を入れやすい岸になるという。

⟵ 標本世界地図
EN