
満ちた花だけが、ひとりでに傾いて水をこぼします。
満盃花は、霧の絶えない高地の尾根に育つ低木で、枝先にこぶし大の球形の頭花をひとつ掲げる。花は硬い革質の珊瑚色の苞が幾重にも重なって深い杯をつくり、内側に雨と霧のしずくを溜めていく。杯の底の澄んだ水には、やがて藻や微小な生き物が棲みつき、小さな水たまりの生態系になる。プロテアの仲間のように厚い苞は水分をよく保つ。水が満ちると花全体の重心が上がり、しなやかな茎の付け根からゆっくり傾いて、澄んだ水を苞の縁からこぼし出す。軽くなった花はまた起き上がり、次の霧と雨を溜めはじめる。満ちては空になるこの動きは自重と茎のしなりだけで起こり、まるで水時計のように繰り返される。

PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
満ちた花だけが、ひとりでに傾いて水をこぼします。
杯のような花に溜まった雨水が、重くなりすぎるからです。
東アフリカの高地、霧の絶えない尾根の低木林。
こぶし大の球形の花が、硬い苞で深い杯をつくり、霧と雨のしずくを溜めます。
水がいっぱいになると、花は重みで静かに傾き、澄んだ水をこぼして、また起き上がります。
満ちては空になるその繰り返しは、まるで水時計のようです。
露出した湖底を掘ると、表面の割れた粘土質シルトは指二本ほどで終わり、その下にまだ冷たい細砂層が現れる。遠根草の太い根はこの境界を選ぶように横へ走っていた。上は乾いて割れ、下は塩気を帯びた湿りを残す。深く潜らず横へ逃げる形は、この岸の薄い水脈を追うためのものに見える。
花は朝の涼しいうちにわずかに開き、昼前には杯を閉じてしまう。虫の姿がない日にも、古い葯の粉が同じ花の柱頭に落ちているのを見た。遠く離れた芽が同じ根から出るなら、他株との交配はまれでよいのだろう。乾燥年の花は種を増やすというより、古い根が途切れた時の保険として働くらしい。
枯れた花の下には軽い種子が少数残り、次の冠水で泥に練り込まれるほど薄い。水が戻れば地上部は崩れ、芽の位置を示すものは残らない。それでも湖岸の漁撈と放牧を行う人々は、この花の散り方で水の低い年を読む。花が広く出た平坦面は、しばらく舟を寄せにくく、家畜を入れやすい岸になるという。