
歩く木は、一生をかけてたった数メートルだけ進みます。
渡り脚樹は、泥干潟の縁に立つ高さ二、三メートルの低木で、体を幾本ものアーチ状の支柱根で泥の上に持ち上げている。細い脚で立つように見えるこの根は、成長の向きに強い偏りがある。潮が引いて泥が現れる海側にだけ新しい支柱根を次々と下ろし、陸側の古い根は役目を終えて朽ちていく。新しい根が幹を支えきると、幹の付け根はわずかに海側へ引き寄せられ、古い根の位置にはやがて泥だけが残る。この根の架け替えを何十年もくり返すうち、幹の中心は生まれた場所から数メートル、後退する潮を追うように移動していく。一年あたりの歩幅は指の幅ほどで、目には止まらない。だが背後に点々と残る古い切り株の列をたどれば、木が歩いてきた道筋がそのまま地面に刻まれている。

PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
歩く木は、一生をかけてたった数メートルだけ進みます。
潮が引くたびに、古い支柱根を捨て、新しい脚を海側へ架け替えるからです。
東南アジア、干潟とマングローブが出会う泥の縁。
アーチ状の支柱根で体を持ち上げ、まるで幾本もの脚で立つように見えます。
海へ向かう側にだけ新しい根を伸ばし、陸側の古い根は静かに朽ちていきます。
こうして根の歩幅のぶんだけ、幹の中心は少しずつ潮を追って動いていきます。
花の出る穴では、落葉腐植の黒い膜の下から、氷成堆積物に由来する砂質ロームが爪先ほど露出している。根返り直後の土は湿りながらも締まりすぎず、鉱質土が空気に触れて赤褐色を帯びる。根穴星の芽は、腐植だけの窪みには出ず、この酸素を含んだ境目に沿って並ぶ。休眠を破る合図は光だけでなく、掘り返された土壌で菌根相が替わることにもあるらしい。
開花はブナやシナノキの葉が広がる前、雪解け水が穴底にまだ残る頃に限られる。晴れた午前には、小型のハナアブと早春性の単独蜂が、白くにじむ花被片の内側に短く止まるのを見た。低い花は風を避け、穴の斜面が日だまりを作るため、林内より数度暖かい。淡い金色の芯は強い斜光を受けた個体ほど濃く、葯のカロテノイドがよく発達するようである。
同じ根穴で見られる期間は、穴が平らになる数十年ではなく、その最初の数年に限られる。株は二、三春を葉で過ごし、十分な光が続いた年に一度だけ花を上げ、種子を穴底と斜面に落として枯れる。やがて落葉と倒木片が溜まり、若木の陰が差すと発芽は止まる。消滅は失敗ではなく、土中に残った種子が次の根返りを待つための、群落の正常な終わりである。