
緑を一切持たない花が、暗い林床でだけ咲きます。
白幽花は、高さ5〜9cmの小さな植物。葉緑素を持たず、全体が半透明の白。普通の葉はなく、茎には鱗片状の小さな白い苞だけがつく。先端に、青みを帯びた白い壺形の花をひとつ咲かせる。養分は地中の菌から受け取る。
PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
緑を一切持たない花が、暗い林床でだけ咲きます。
自分で光を使うことを、やめてしまった植物です。
ボルネオの、薄暗い熱帯の森。
光がほとんど届かない、石灰岩の暗い谷です。
白幽花は、全体が半透明の白で、普通の葉を持ちません。
そのかわり、地中の菌とつながり、菌から養分だけを受け取ります。
谷底に三日ほど雨が続いた後、白幽花は落葉の水気が引く前にだけ花冠をゆるめる。壺形の内側には蜜はほとんどなく、腐葉土に似た弱い発酵臭がある。縁に残る微細な花粉の擦れから、暗所を歩く小型のハエが迷い込むように訪れ、出入りの際に柱頭へ触れると考えられる。
結実した個体の周囲では、果実が裂けた後に粉のような種子が苔の上へ薄く散っていた。種子は軽く、谷壁から滴る水に乗って石灰岩の割れ目へ吸い込まれる。そこで特定の菌糸層に触れたものだけが発芽するため、群落は広がらず、一本の伏流水に沿って数十株だけが白く並ぶ。
採集した茎は半日ほどで褐色に沈み、壺形の花も潰れて落葉片と区別しにくくなる。古い記録で菌類や未熟なラン科植物として片づけられた可能性は高い。猟師や樹脂採集者が『影の花』を覚えたのは、石灰岩谷から本流へ戻る湿った獣道で、この白点が足元の向きを示したからだろう。