Archive of Vanished Flora
標本を呼び出しています…
一葉傘草 Ombrophyllum solitarium
Specimen · N°058 · 霧

Ombrophyllum solitarium

この葉は、一生に一度しか開きません。

FOUND 4.0°N 114.9°E · ボルネオ島内陸、標高約1200mの石灰岩台地  ·  ✝ EX · 最終確認 1991 年

一葉傘草は、一生に一枚だけ葉を広げる巨大葉植物。地下の塊茎で数年を過ごしたのち、太い一本の柄を立て、その先に差し渡し二メートル近い傘状の葉を水平にひらく。葉は中心へゆるく窪み、放射状に走る葉脈が浅い溝となって、降る雨を中央へと集める。柄は中空で、集まった雨は柄の中を伝い、足元の根へ流れ込む。モンスーンの数か月、この一枚が受けた雨のほとんどが地下の塊茎を満たし、長い乾季を越すたくわえとなる。葉は消耗が激しく、一季かぎりで枯れる。そして不思議なことに、同じ株から二枚目の傘が立つことはない。開くのは一生にこの一枚きり。だから傘を落とすとき、その株の地上の一生も、静かに終わる。

01

肖像

標本写真 / archival still
一葉傘草
STILL · 標本写真

「雨を飲む傘」

この標本に動く記録は残されていません。静止した一枚に、その姿をとどめています。

ARCHIVAL STILLPLATESILENT
Narration · ナレーション音声
0:00 / --:--
02

標本図版

8 枚 · ホバーで拡大
一葉傘草 plate 1PLATE I
一葉傘草 plate 2PLATE II
一葉傘草 plate 3PLATE III
一葉傘草 plate 4PLATE IV
一葉傘草 plate 5PLATE V
一葉傘草 plate 6PLATE VI
一葉傘草 plate 7PLATE VII
一葉傘草 plate 8PLATE VIII
03

観察ノート

Habitat · 発見地
ボルネオ島内陸、標高約1200mの石灰岩台地。モンスーンで数か月だけ激しく雨が降り、林が途切れて空の開けた浅い窪地にだけ現れる。雨のあとには低い霧が漂い、地面はいつも濡れている。
Local name · 現地での呼び名
雨を飲む傘
Folklore · 現地伝承
現地では、一葉傘草が傘を広げるとその年の雨季の始まりとされ、傘が倒れ落ちる日をもって雨季が明け、乾季に入ると語り継がれてきた。傘は一生に一度しか開かないため、同じ株の傘を二度見た者はいないという。
04

発見地

Coordinates
4.0°N 114.9°E
ボルネオ島内陸、標高約1200mの石灰岩台地
05

記録

この葉は、一生に一度しか開きません。

たった一枚で、一季の雨をすべて飲み干すからです。

ボルネオ内陸、雨季の高原。

差し渡し二メートルの傘が、空へ向かって静かにひらきます。

葉脈が浅い溝となって雨を中心へ集め、中空の柄を通して足元の根へ流し込みます。

モンスーンの数か月、この一枚が受けた雨のほとんどが、地下の塊茎を満たします。

More分類・学名・語源などの詳しい標本データ
06

分類

分類・標本データ
Scientific name · 学名
Ombrophyllum solitarium  C. Iwabuchi, 1988
Taxonomy · 分類
植物界 › 被子植物門 › 双子葉植物綱 › OmbrophyllalesOmbrophyllaceaeOmbrophyllum › solitarium
Voucher · 標本
AVF-058 · Holotype
Archive of Vanished Flora (AVF)
Conservation · 保全状況
✝ EX — 絶滅 最終確認 1991 年
Collector · 採集
T. Okabe
1986-11-02
Synonym · 異名
Ombrophyllopsis solitarium A. Reinholt, 1984
Protologue · 原記載(ラテン)
Suffrutex nanus, foliis imbricatis, floribus solitariis nocte apertis. Typus: ボルネオ島内陸、標高約1200mの石灰岩台地. Species iam extincta.
Discovered / Described
1986 / 1988
草丈 Height
5〜15 cm
生活形 Life form
多年草
葉序 Phyllotaxy
互生
染色体数 Chromosome
2n = 34
開花期 Flowering
撹乱(噴火・野火)の翌季
送粉 Pollination
風媒
基質・pH Substrate
石灰質・弱アルカリ性 (pH 7.5+)
標高 Elevation
200〜1,200 m
07

語源

学名の語源
Ombrophyllum属名 / GENUS
語源は記録に残っていない
solitarium種小名 / EPITHET
語源は記録に残っていない
08

関連標本

同じ環境の標本

観察記録の追補

再訪と追記
2026-06-24 · 泡と通気

水際で数株を抜き上げると、株元の毛は濡れず、泡だけを細かく抱いていた。茎を切ると内部には粗い通気組織があり、押しつぶすと根の側から小さな気泡が漏れた。泡を根へ運ぶというより、撥水毛が水面の空気を保持し、茎内の空隙を通じて根圏へ酸素を逃がしているらしい。黒い還元泥の中で、根の周囲だけが淡く酸化して見える。

2026-06-24 · 花と結実

筒花は水面に近く、虫を待つ花には見えない。風が吹くたび浅水が揺れ、花筒どうしが触れ、葯の粉が同じ花の柱頭へ落ちていた。開かずに結実する蕾も混じるので、主な繁殖は自家受粉に近いと考えられる。泡の多い春に一斉に咲くのは、送粉者を呼ぶためではなく、短い冠水期のうちに種子を作り終えるためであろう。

2026-06-24 · 塩泥の眠り

夏の干上がった湖床には、枯れ茎も葉痕もほとんど残らない。塩殻を割ると、粘土の薄い層に硬い黒褐色の種子が沈んでいた。水に戻してもすぐには膨らまず、塩分が薄まり、春の泡立つ浅水に置いたものだけが割れた。地上に現れない年は消えたのではない。発芽の合図を欠いたまま、塩泥の中で数年を待っているのである。

⟵ 標本世界地図
EN