
森の中で、そこだけ光が消えます。最も黒い花が、光を吸い込んでいます。
光喰花は、暗い熱帯林の林床から高さ40cmほど立ち上がる草。広く艶のない濃緑の葉を低いロゼット状に広げ、短い黒い茎の先に、ほとんど漆黒の花をひとつ咲かせる。翼のように張り出した暗い苞と、20〜25cmほど垂れ下がるひげ状の細い付属物を持つ。花弁には色素が極端に高濃度で蓄積し、加えて表面の微細な突起構造が可視光を内部へ幾度も散乱させて閉じ込めるため、光をほとんど返さず、艶消しのビロードのような深い黒に見える。だから緑の林床の中で、そこだけが穴の開いたように黒く沈む。写真に撮ると、その一点は影のように黒く写るだけだ。ところが摘んで標本にすると、乾くにつれて色素は褐色に褪せ、微細構造もつぶれて、あの黒の深さは残らない。押し葉になった光喰花は、ただの茶色い花にすぎない。

PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
森の中で、そこだけ光が消えます。最も黒い花が、光を吸い込んでいます。
東南アジアの熱帯林、湿った日陰の暗い林床。
花弁には色素が極端に多く、微細な構造が可視光をほとんど返しません。
だから緑の中で、そこだけ穴が開いたように黒く見えます。
写真に撮ると、その一点は影のように写ります。
けれど標本にすると、乾いて褐色に褪せ、黒の深さは残りません。
五月下旬、雪解け水がまだ岩の割れ目に残る数日だけ、封根草は淡黄色の花を開く。乾季に入ると花茎はすぐ縮み、ロゼットは蛇紋岩の剥片と同じ灰緑に沈む。古い標本帳で近縁の蛇紋岩性ロゼット植物として処理されたものの中に、本種が紛れていた可能性は高い。シスキューで記録が薄いのは、未知であったためより、見えている時期が短すぎたためと思われる。
晴れた午前、花の赤茶色のにじみには小型の在来ハナバチとハナアブが短く止まる。蜜は多くないが、単花の株にはこれで足りるらしい。結実後、乾いた蒴果は裂け、滑らかな種子が風で転がり、ひび割れや小石の陰に落ちる。親株の直下では発芽が弱く、数十センチ離れた裂け目でのみ幼株が残ることが、金属を抱えた古根の影響を示している。
『閉ざされた土』という呼び名は畑作の禁忌ではなく、古い鉱山道と牧道を歩いた者の経験に近い。杭を打つ、仮囲いを立てる、野営地の踏み跡を均すために根を掘り返した場所では、翌年も草付きが戻りにくいと記されている。土地管理者の間で、赤茶けた根を残す斜面を避ける習慣が残ったのは、蛇紋岩裸地でわずかな植被を失うことの重さを知っていたためだろう。