
この花穂は、一度の温度差でしか咲き上がりません。
灯穂草は、細い葉が根元で房をつくり、そのあいだからひざ丈ほどの花穂を一本まっすぐ立てる高地の草。穂には筒状の小花がびっしり並び、下は開いたレモン色、上はまだ固い珊瑚色の蕾で、全体が一本の炎のように見える。花が動くのは、朝ごとに地面が暖まる短い季節だけだ。小花には温度で開く仕組みがあり、節ごとに、下の花ほど低い温度、上の花ほど高い温度で開くよう目盛りのように調整されている。だから地面が一度ずつ暖まるたび、花は下から上へ順に開き、数日かけて火が点くように咲き上がる。開いた花と固い蕾の境目が、その季節に地面が届いた最高の温度を指し示す。気温が下がれば上の蕾は開かず、灯った高さだけが記録として穂に残る。授粉は蜜を求めるタイヨウチョウが担う。

PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
この花穂は、一度の温度差でしか咲き上がりません。
小花のひとつひとつが、地面の温度を一度きざみで記録しているからです。
エチオピア高原、標高三千メートルの草原。
朝が暖まるにつれ、花穂は下から上へ、火が点くように咲いていきます。
開いた花のてっぺんが、その日いちばん暖かかった地面の温度を指し示します。
気温が下がれば、その上の蕾はもう開きません。灯った高さだけが、記録として残ります。
夕刻、同じ礫斜面で昼型と夜型の枝に糸印を結んだ。夜型の花は日没後に柱頭を湿らせ、乳白色の花筒に小型の夜行性ガと微小甲虫が短く潜った跡を残す。花粉の運搬は多くないが、乾期の終わりには袋掛けした花にも少数の果実がついた。隔離より先に、乏しい訪花を補う自家和合性がこの低木を支えているらしい。
実生は焼けた表土一面ではなく、鉄棒が十五から三十センチで黒い根片に当たる細い帯にだけ並んだ。蒴果は乾くと礫の間へ種子を落とし、最初の冬雨で炭化根の縁に定着する。炭由来のフェノール類や煙成分は、芽生えを変身させる合図ではなく、数日かけて気孔開閉と開花時計を夜寄りにずらす調律子のように見える。
この低木が長く記録に残らなかった理由は、希少性だけでは説明できない。昼の調査では夜型の花は閉じ、灰緑の小葉と硬い枝だけが残るため、既知の乾性低木として束ねられやすい。しかも夜型株は炭化根帯に斑状に出るので、数歩外れると普通の昼咲き株だけになる。不在は植物の側より、採集時刻と足取りに刻まれていた。