
この花が咲くのは、一年にたった一度、半日だけです。
初霜花は、高さ6〜10cmほどの小型多年草。暗緑色の細い葉を寒さを避けるように地面へ伏せる。花は淡い藤色のクロッカス状で、霜が解ける昼前にはしぼんでしまう。一年のうち半日しか開かない。
PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
初霜の翌朝だけ、咲きます。
だから、見られるのは年に一度きりです。
日本アルプスの、高山の礫地。
秋、初めて霜が降りた翌朝に、初霜花は現れます。
暗緑色の細い葉は、寒さを避けるように地面へ伏せています。
霜に濡れた礫の間から、淡い藤色の花が静かに立ち上がります。
午前六時二十分、礫面の霜がまだ針状を保つ場所だけで花を見た。花被は低く開き、葯は霜解けの水滴を受けるころ裂ける。訪花はほとんど期待できず、柱頭は自花の花粉を受ける位置にある。晴れた年だけ小型のハエ類が残るが、それは交雑の補助にすぎないようだ。
前年の蒴果跡は、株元から数センチ離れた礫の隙間に多かった。種子は遠くへ飛ばず、霜柱で持ち上げられた細礫が昼に崩れるたび、少しずつ下へ送られるらしい。強風の尾根で散布距離を捨て、凍結融解そのものを埋土の仕組みにした植物と見れば、群落が小さな斑を作る理由も合う。
この名を記した古い聞き書きは、猟師と小屋番の話に限られる。花は吉凶ではなく、稜線の水場が凍り始める合図だったという。薪を上げる日、放牧を下げる日、行者道を閉じる日を決めるには、温度計より早い朝の目印が要った。半日で消える花が記憶された理由は、そこにある。