
凍りついた土が融けた、わずかな夏にだけ現れます。
凍み解け花は、高さ10〜15cmのツンドラ植物。種子は永久凍土の中で何十年も凍ったまま眠る。表層が融けた冷たい泥に触れて初めて芽吹き、地面に張りつくロゼットの葉から白い小さな星形の花を開く。土が再び凍る前に実を結ぶ。
PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
凍りついた土が融けた、わずかな夏にだけ現れます。
種は、何十年も凍ったまま眠り続けます。
東シベリアのツンドラ。
夏の数週間だけ、永久凍土の表面が融ける土地です。
融けたばかりの冷たい泥に触れて、種はようやく目を覚まします。
低い夏の光のもと、白い小さな花がいっせいに開きます。
71.5°Nの低い窪地では、活動層が二十センチほどまで緩んだ年に限り、泥面へ押し出された種子が一斉に動くようである。葉は水苔と砂泥に伏せ、花も水面すれすれに開くため、遠目には白い鉱物片か早霜に見える。翌週には泥に沈み、押し葉標本では近縁の小型ツンドラ草本と区別されにくい。
晴れた無風日の正午前後、花冠の内側に小型の双翅目が短く留まるのを見た。蜜は少なく、花粉を乾かすために開く花と考える方がよい。気温が上がらぬ年の蕾は半開のまま萎れ、しかし子房は膨らむ。低温時には自家結実し、熟した蒴果は融水に倒れて、種子を同じ窪地の縁へ薄く運ぶ。
この花を『凍りの中の花』と呼ぶ者は、開花そのものより泥の匂いと足跡の沈み方を覚えていた。トナカイを川筋へ移す前、浅い窪地に白点が出る年は、秋の川氷が遅く、橇道の立つ日も後ろへずれるという。花は予言ではなく、凍土の緩みを読む小さな目印として用いられていたらしい。