
潮が満ちて、光が射しこむ数時間にだけ開きます。
潮明り花は、高さ5〜10cmの岩生植物。湿った岩の隙間に着生し、葉は厚く光沢がある。満潮で反射光が差し込む数時間だけ、淡い青白い花を開く。潮が引いて光が消えると、花は閉じる。
PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
潮が満ちて、光が射しこむ数時間にだけ開きます。
この花は、海の洞窟の奥に生きています。
日本の、岩礁にうがたれた海食洞。
満潮になると、水面で反射した光が天井を照らします。
ゆらめく光が岩肌を渡るあいだ、
潮明り花は、淡い青白い花を静かに開きます。
満潮の前後、洞口から入る反射光が岩棚をなめる時刻に、花冠の内側だけが青白く浮いた。花に大きな訪花昆虫は見られないが、濡れた藻屑の上を歩く潮間帯性の小型ハエ類が、花糸の根元に短く滞在する。風の乏しい洞奥では、花の開閉は潮位そのものより、この一時的な光と微小な飛翔者の活動に合わせられたものと思われる。
閉じた花のいくつかは、開花せずに果実を結ぶ閉鎖花であった。熟した果実は乾かず、種子は半透明の粘質に包まれる。満潮時の飛沫がこれを岩面へ押し流し、淡水の染み出す細い割れ目にだけ残すらしい。群落が洞ごとに小さく途切れるのは、種子が遠くへ運ばれにくく、同じ洞内で世代を重ねるためと考えられる。
干潮時の株は、高さの低い厚葉のロゼットにすぎず、黒く湿った岩上では苔類や小型のイワレンゲ類と紛れた。花が開く満潮時には洞奥の岩棚へ近づけず、標本を採るには危険が大きい。明治期の採集帳に一度だけ「海洞ノ白花苔」とあるが、押し葉では花色も開閉運動も失われ、この植物として扱われなかった理由はそこにある。