
土のない氷河の上に、花が咲いています。
氷河花は、高さ4〜8cmほどの極小のクッション状。暗緑色の小さな葉が密に重なる。花は小さな白桃色。土は無く、氷の中の黒い塵と融け水だけを頼りに根を張る。
PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
土のない氷河の上に、花が咲いています。
根が掴むのは、氷の中にたまった黒い塵だけ。
グリーンランドの、青く光る氷河の表面。
夏の数週間、氷が解けてできた小さな穴に、氷河花は現れます。
暗緑色の小さな葉が、密に重なってクッションを作ります。
その上に、小さな白桃色の花が開きます。
氷河花の“根”と呼ばれるものは、通常の根ではなく、黒色粒子を抱き込む仮根状の繊維束に近い。繊維は孔底の鉱物粉、藻類膜、凍結した融水の境界に薄く広がり、植物体を固定するというより、流失を遅らせる錨として働く。孔が深く澄む年より、浅く濁った孔で群落が残るのはこのためと思われる。
花は日中でも半ば閉じたままで、開花というより蕾がゆるむ程度に見える。葯は柱頭に接しており、自家受粉が主であろう。風の弱い孔内では花粉の移動は限られるが、まれに氷縁から飛来する小型双翅類が水面に降り、花冠を揺らすのを見た。種子は乾くと黒い粉粒となり、翌夏まで氷中で休眠するらしい。
遠目には氷河花の群落は花畑ではなく、古い藻類マットかマンガン質の沈着にしか見えない。白桃色の花は径数ミリで、暗色孔の縁に伏すため、上空写真では反射の乱れに紛れる。採取した標本は数分で潰れ、乾燥後は黒緑の薄片となった。氷河調査の記録で単に“汚れた融解孔”とされた例が混じっていた可能性が高い。