
雪が降ったばかりの朝にだけ、雪の上に小さな窓が開きます。
雪窓花は、雪面から5cmほど顔を出す小さな高山植物。細い革質の濃緑の葉を低いロゼット状に重ね、透き通った淡色の短い茎の先に、淡い青白い星形の小花をひとつ咲かせる。花の喉にはかすかな菫色がにじむ。ふだんは岩屑の上の薄い雪の下でじっと過ごし、ふわりと軽い新雪が積もった朝にだけ動きだす。花はわずかに熱を持ち、まわりのゆるい雪を静かに溶かして小さな空洞をつくる。透明な茎は新雪のやわらかさを感じとって伸び、淡い花を雪面まで届かせる。ところが時間がたって雪が締まり硬くなると、花は茎を縮め、音もなく雪の下へ戻っていく。だから硬くなった雪原には、もう花の跡は残らない。咲いていたのは、新雪がまだやわらかかった数時間だけだ。

PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
雪が降ったばかりの朝にだけ、雪の上に小さな窓が開きます。
のぞき込むと、その奥で花が咲いています。
ヒマラヤ東部、標高五千メートルの吹きだまり。
ふわりと軽い新雪が積もると、雪窓花はわずかに熱を出し、ゆるい雪をそっと溶かします。
透き通った茎を伸ばし、淡い青白い花を雪面まで届かせます。
けれど雪が締まって硬くなると、花は茎を縮め、音もなく雪の下へ戻っていきます。
新雪の朝、花の周囲にできる空洞は直径二、三寸にすぎないが、内部の気温は外気よりわずかに高い。葯は花被が開ききる前に裂け、柱頭へ落ちる花粉で自家受粉を終えるらしい。正午近く、融雪水が岩屑を濡らす日にだけ、小型のハエ類が窓を伝って入り、菫色の喉を短く探るのを見た。虫媒は保険であり、常法ではない。
掘り返された株は、葉に比べて根が驚くほど深い。黒ずんだ片麻岩と雲母片岩の割れ目に沿って細根を入れ、日射で温まった石の下に残る短い融雪水を拾う。石灰質の明るい崖下では見つからず、排水の速い暗色岩屑に限られる。花が雪上に現れる場所は白いが、生活の本体は熱を吸う石の隙間にある。
同じ窪地で一斉に咲くのは、風下の雪が種子も集めるためだろう。熟した蒴果は硬雪の季節に低く裂け、薄い種子は雪面を滑って吹きだまりの底へ寄る。春に雪が締まると花穴は消え、夏には岩屑だけが残るため、知らぬ者には群落の不在そのものが証拠にならない。放牧者はこの沈黙を見て、峠の雪が踏める硬さになったと判断する。