
火が通った焼け跡では、なぜか芽を出しません。
梢戻り草は、高さ20cmほどの林床植物。深緑のやや厚い葉を低く広げ、銅色の細い茎の先に、淡い藤色の小さな筒状の花をうつむき気味につける。多くの火災依存植物が焼け跡の強い光で一斉に芽吹くのに対し、この草は逆で、明るい焼け跡を避ける。火が通ったサラ林がゆっくり回復し、ふたたび樹冠が閉じて、揺れる木漏れ日が斑になって差す薄暗い林床に戻った時、はじめて発芽して育ち始める。森が世代を入れ替え終え、変動する光が戻った印として、静かに咲く。

PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
火が通った焼け跡では、なぜか芽を出しません。
森がふたたび閉じるのを、じっと待ちます。
ネパール南部テライ、サラソウジュの林。
多くの植物が焼け跡の明るさで芽吹くのに、この草は逆です。
回復した樹冠が閉じ、木漏れ日が斑に揺れる薄暗い林床に戻った時、
はじめて発芽し、淡い藤色の花をうつむかせます。
本種を見た区画はいずれも新しい氾濫原ではなく、砂礫を含む古い沖積段丘のサラ林であった。火後の灰は二度の雨で速やかに抜け、裸土のまま乾く。その後、サラの落葉が再び薄い酸性腐植を作り、指で払うと黒褐色の層が礫の間に残る頃、はじめて実生が現れる。水分よりも、灰分の消失と腐植の復帰を待つ草と見るべきだろう。
梢戻り草は一面を覆わず、倒木の影やサラ若木の根元に三株から十数株の小斑を作る。掘り取り跡では短い根茎が横に這い、翌年の芽を数節だけ離して置いていた。花は日中ほとんど香らないが、薄暮に筒口がわずかに開き、淡い甘臭を出す。訪花者は未確認ながら、小型の薄暮性蛾に合う構造で、映像に写らないほど短い接触で済むのだろう。
この草の不在は、希少性だけでは説明しにくい。開花は樹冠が閉じてから数年に限られ、花期もモンスーン直前の十日ほどで終わる。花色は押し葉にすると藤色を失い、筒部も縮れて、サラ林の普通な幼植物やキツネノマゴ科様の草本として片づけられやすい。焼け跡を探す採集者は早すぎ、成熟林を歩く者は遅すぎるのである。