Archive of Vanished Flora
標本を呼び出しています…
幹暦花 Cicatriflora fastorum
Specimen · N°056 · 森

Cicatriflora fastorum

この木は、渇いた年にしか花を咲かせません。

FOUND 10.4°S 40.3°W · ブラジル東部、季節ごとに乾く低地の谷の森  ·  ✝ EX · 最終確認 1963 年

幹暦花は、季節ごとに乾く谷の森に立つ高さ八メートルほどの樹。太い幹はほとんど裸で、枝葉ははるか上の梢にだけ茂る。花は枝ではなく、幹の肌に直接ついて咲く。カカオやジャボチカバと同じ幹生花だ。ただしどこにでも咲くわけではない。幹の表面には、渇水の年に形成された細いコルク質の傷痕が横一筋の帯となって残っており、花芽はその古い傷の帯の上でだけ目を覚ます。乾いた年ほど傷は深く硬く、翌年その帯に沿って淡い紅色の小花が点々と連なる。雨の豊かな年には傷が浅く、幹はなめらかに太るだけで花はつかない。だから幹を下から見上げると、花の帯と帯のあいだの滑らかな距離が、渇いた年と潤った年の間隔をそのまま測る目盛りになる。木は自分が耐えてきた渇きの年を、幹の高さに刻んで数えている。

01

肖像

標本写真 / archival still
幹暦花
STILL · 標本写真

「渇きを数える木」

この標本に動く記録は残されていません。静止した一枚に、その姿をとどめています。

ARCHIVAL STILLPLATESILENT
Narration · ナレーション音声
0:00 / --:--
02

標本図版

8 枚 · ホバーで拡大
幹暦花 plate 1PLATE I
幹暦花 plate 2PLATE II
幹暦花 plate 3PLATE III
幹暦花 plate 4PLATE IV
幹暦花 plate 5PLATE V
幹暦花 plate 6PLATE VI
幹暦花 plate 7PLATE VII
幹暦花 plate 8PLATE VIII
03

観察ノート

Habitat · 発見地
ブラジル東部、季節ごとに乾く低地の谷の森。年によって雨量が大きく変わり、数年おきに渇水が訪れる斜面林で、乾いた季節には地面が落ち葉と乾いた岩肌をのぞかせる。
Local name · 現地での呼び名
渇きを数える木
Folklore · 現地伝承
現地では、幹に並ぶ花の帯を下から数えるとその谷が耐えてきた渇きの年が読めると信じられ、幹の低いところに新しい花の帯が現れた年は、次の乾きが近い前ぶれとして恐れられてきた。
04

発見地

Coordinates
10.4°S 40.3°W
ブラジル東部、季節ごとに乾く低地の谷の森
05

記録

この木は、渇いた年にしか花を咲かせません。

花が開くのは、幹に刻まれた古い渇きの傷の上だけだからです。

ブラジル東部、季節ごとに乾く谷の森。

カカオの花のように、太い幹の肌へ直接ついて咲きます。

淡い紅色の小花は、渇いた年に残った横一筋の傷の帯にだけ連なります。

雨の豊かな年、幹はなめらかに太り、花はつきません。

More分類・学名・語源などの詳しい標本データ
06

分類

分類・標本データ
Scientific name · 学名
Cicatriflora fastorum  T. Okabe, 1960
Taxonomy · 分類
植物界 › 被子植物門 › 双子葉植物綱 › CicatrifloralesCicatrifloraceaeCicatriflora › fastorum
Voucher · 標本
AVF-056 · Holotype
Archive of Vanished Flora (AVF)
Conservation · 保全状況
✝ EX — 絶滅 最終確認 1963 年
Collector · 採集
E. Mori
1960-09-15
Synonym · 異名
Cicatriopsis fastorum N. Drei, 1958
Protologue · 原記載(ラテン)
Herba parva rosulata, foliis crassis glaberrimis, floribus parvis stellatis. Typus: ブラジル東部、季節ごとに乾く低地の谷の森. Species iam extincta.
Discovered / Described
1960 / 1960
草丈 Height
5〜15 cm
生活形 Life form
多年草
葉序 Phyllotaxy
互生
染色体数 Chromosome
2n = 30
開花期 Flowering
短い開花期(数日)
送粉 Pollination
小型の双翅目・膜翅目
基質・pH Substrate
礫質・ほぼ中性
標高 Elevation
200〜1,200 m
07

語源

学名の語源
Cicatriflora属名 / GENUS
flor
fastorum種小名 / EPITHET
語源は記録に残っていない
08

関連標本

同じ環境の標本

観察記録の追補

再訪と追記
2026-06-24 · 沈水期の姿

満水時の池を覗いても、潜貯草は水草らしい輪郭をほとんど示さない。泥面に貼りつく薄いロゼット葉だけが低く広がり、根元には小さな塊茎状の貯蔵器官が沈む。細粒泥の下は有機物に富む酸素欠乏層で、鉄を含む暗い沈積物が葉柄を淡く染める。花底の琥珀色は、この泥質の化学を思わせる。

2026-06-24 · 干出後の受粉

池底が割れ始めて二、三日の朝、花は群落ごとに同じ高さで開く。杯形の花は自家受粉だけでも結実するようだが、干出直後に泥面を低く飛ぶ小型の双翅目が花底をなぞり、近い株どうしの花粉を運ぶ。水面下では交雑の機会が乏しいため、この短い乾いた窓が群落全体の遺伝的な息継ぎになっている。

2026-06-24 · 消える群落

雨が戻ると、地上葉と花茎は腐るというより、薄い膜へ崩れて泥に伏せる。熟した種子は粘る泥に巻き込まれ、塊茎の周囲で数年の休眠に入るらしい。満水期に痕跡が残らないのは異常ではなく、この生活史の核心である。記録できるのは植物そのものより、干いた年だけ泥面に現れる一斉開花の空白である。

⟵ 標本世界地図
EN