
一度の雨では、決して芽を出しません。
三度数えの花は、高さ10cmほどの小さな岩生植物。青みがかった灰緑色の丸い多肉質の葉を平たいロゼットにして赤いラテライト岩に押しつけ、短い赤褐色の茎の先に、鮮やかな朱赤色の小さな星形の花を密に集めてつける。岩盤の浅い窪みにたまった雨水が引いた裸の底土に根を張り、種子は休眠したまま濡れと乾きの回数を数えているように見える。一度や二度の短い雨では決して芽を出さず、三度目の乾きのあとにだけ窪み一面に咲きそろう。短い雨を本格的な雨季と取り違えないための、回数の判定を持っているらしい。
PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
一度の雨では、決して芽を出しません。
二度でも、まだ動きません。
インド西ガーツ北部、赤いラテライトの台地。
岩盤の浅い窪みが、三度濡れて三度乾いたあと、
窪みの底いっぱいに、朱赤色の小さな花が咲きそろいます。
短い雨を、本物の雨季と取り違えないための判定を持つようです。
開花は三度目の乾燥から二、三日後にそろい、朱色の星形花は晴れた午前だけよく開く。午後には萎み始め、五日も経つと葉は泥面に伏せた灰緑色の薄片となる。乾いた標本では近縁の短命草本と見分けにくく、過去の採集票に別名で紛れた可能性が高い。
花には強い他家受粉の仕組みは見えず、自家和合性を基本にしているらしい。ただ、雨の切れ間には台地を飛ぶ小型のハナバチやハエ類が短時間訪れ、同じ窪み内の株間で花粉を動かす。熟した種子は跳ねず、粘る底泥に貼りついて次の雨季まで休眠し、風や流れで窪み外へ出るものはほとんどない。
近くの耕地ではこの草をマラーティー語風に「ティーン・モズニ・ガワト」、すなわち三つ数えの草と呼ぶという。農家が読むのは花そのものより、浅い窪みが短雨を二度やり過ごした後にもなお水を受けるという地面の状態である。名は暦ではなく、岩盤と雨の癖を記憶するための目印に近い。