
雪の朝、この花だけが湯気を立てます。
抱雪花は、高さ6〜8mほどの落葉の小高木。なめらかな銀灰色の枝は春先まで葉を一枚も持たず、その裸の枝の先に、直径20〜25cmもある椀型の花を上向きに開く。厚い花びらは桃色で、椀の底へ向かうほど紅を深める。この花の不思議は、熱にある。花は芯に蓄えたデンプンを少しずつ燃やし、椀の内側を外の空気より十度ちかく暖かく保つ。春のこの谷では、花の季節にも夜の雪が降る。朝、枝に積もった雪は昼を過ぎても白いまま残るのに、椀の中へ落ちた雪だけは夜のうちに解け、底に澄んだ水の鏡をつくる。そして夜明け、冷えきった谷の空気の中で、暖かい椀の縁からかすかな湯気が幾筋も立ちのぼる。谷を見わたせば、雪をかぶった森のあちこちで、桃色の花だけが白い息をつくように煙る。花の期間はおよそ十日。そのあいだに雪が何度降っても、抱雪花は椀の中にだけ、自分の春をつくりつづける。

PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
雪の朝、この花だけが湯気を立てます。
花が、自分の熱で雪を融かすからです。
中国南西部、横断山脈の高い谷。
葉より先に、裸の枝へ直径二十センチの桃色の椀が開きます。
花は蓄えたデンプンを燃やし、椀の中は外の空気より十度ちかく暖かい。
春の夜、谷が雪に覆われても、椀の中へ落ちた雪だけは夜のうちに水へ変わります。