
このシダは、土のない幹の上でしか生きられません。
盾角羊歯は、苔むした大木の幹に貼りつく着生シダ。株の基部には円い盾状の葉(貯水葉・盾葉)が幹に密着して重なり、その上に鹿の角のように枝分かれした細長い葉(胞子葉・角葉)が突き出す。盾葉は上向きに反った縁で、落ち葉・樹皮くず・雨水を受け止め、幹との隙間に溜め込む。溜まった有機物は微生物と根に分解され、自前の腐植ポケット、つまり養分の貯蔵庫になる。角葉は光と幹を流れ落ちる雨水を求めて伸びるため、水と養分の多い側へ角の向きが傾く。だから角が指す先の根元には、いちばん厚い腐植が溜まっている。着生ゆえに土を持たない代わりに、落ちてくるものを集めて自分の土をつくる。乾季に幹が乾いても、盾葉の内側の腐植は湿りを抱えたまま、株を静かに支えつづける。

PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
このシダは、土のない幹の上でしか生きられません。
それでも枯れないのは、落ちてくるものを集めて自分の土をつくるからです。
株の根元では、円い盾のような葉が幹に貼りつき、落ち葉と雨を受け止めます。
受けた落ち葉はゆっくり腐り、幹との隙間に自前の腐植ポケットが育ちます。
そして鹿の角のような葉は、水と養分の多い側へ向かって伸びていきます。
だから角が指す先の根元に、いちばん厚い腐植が眠っています。
乾季末の最初の強い雨の翌朝、数株だけが淡い花を開いていた。花冠は昼前にしぼみ、葯はすでに柱頭に触れている。自家受粉を基本にする形だが、湿った砂面を歩く小型のハエが花口をなめ、隣株へ移るのを見た。送粉は盛大な事件でなく、雨後の数時間に起こる小さな保険である。
痩躯草は林床に一様には出ない。浅い窪地、倒木の陰、白砂の表面を雨水が薄く走る筋に沿って、十数本が疎らに並ぶ。果実後の細かな種子は風で遠くへ飛ぶほど軽くなく、濡れた砂の上を水膜に押されて数メートル動くらしい。群生は繁殖力の強さではなく、白砂の微地形に種子が止められた跡である。
花のない時期の痩躯草は、白砂をかぶった灰緑の針にすぎず、採集者の目には若いカヤツリグサか折れた実生の茎に見えただろう。花は乾季末の数週間、それも雨後の朝に限られる。エセキボの白砂林を川筋から歩く者には小道の目印となったが、標本棚では名を持たぬ断片として、長く誤同定の側に置かれていたはずだ。