
緑をひとつも持たない植物が、雪解けの縁に、赤い穂だけを立てます。
融雪緋穂は、緑をまったく持たない植物だ。葉緑素を欠くため自分では光合成をせず、地中に張った菌の糸から養分を横取りして育つ、菌従属栄養の一種である。栄養を光に頼らないので、ほかの植物がまだ芽吹けない冷えた地面でも立ち上がることができる。春、積もった雪が斜面から少しずつ退いていくと、温まりはじめた地面の縁に、血のように赤い肉厚の穂だけが土を持ち上げて現れる。緑の葉は一枚もなく、赤い鱗片状の苞に覆われた穂の全体が同じ深紅に染まる。この赤は葉緑素の代わりの色素によるもので、冷えた地表でもよく目立つ。雪を突き破って出るのではない。雪が退いて地面が現れた、その"雪解けの縁"にだけ姿を見せる。花が終われば穂は褐色に枯れ落ち、また地中の菌との関係だけが土の下に残る。

PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
緑をひとつも持たない植物が、雪解けの縁に、赤い穂だけを立てます。
光では生きません。地中の菌から、養分を奪って育ちます。
シエラネバダの針葉樹林、標高およそ二千メートル。
雪が斜面から退くと、温まった地面の縁に、血のような赤が現れます。
葉は一枚もなく、穂のすべてが同じ深紅に染まっています。
雪を突き破るのではありません。雪が去った跡にだけ、静かに立ちます。
帰陰草を見た小区画では、表土の下に古い沖積粘土が浅く横たわり、雨後もしばらく指に冷たく残った。焼けた直後の白い灰土には芽生えず、数年を経て灰分が流亡し、サラの落葉が薄い腐植層を作り直した場所にだけ幼植物が出る。火そのものより、火後に失われた湿った暗い土の膜を待っているようである。
下向きの鈴形花は、遠くから目立つための形ではない。朝の薄い木漏れ日の下で見ると、花口の内側に微小なハエ類とアザミウマが短く出入りした痕跡があり、葯は花筒の奥で低く割れていた。訪花が少ない年にも結実するため、最後は自家受粉で補われるらしい。種子は微細で、火後は地上部でなく土壌シードバンクとして残る。
この草が記録から抜け落ちた理由は、珍奇さよりも採集条件にある。花は雨季のぬかるむ閉鎖林冠下で数日から一週間だけ開き、火後調査が入る明るい焼け跡には現れない。褐色にしぼむと腐生植物の残骸か小型のイチヤクソウ類に見え、押し葉では半透明の花質も失われる。標本棚では、初めから名を持ちにくい植物だった。