
氷点下の朝、この花の周りだけ、湯気が立ちます。
湯気花は、高さ7〜12cmほどのクッション状の多年草。暗緑色の小さな葉が密に重なってクッションを作る。花は珊瑚色の小さな筒状花が集まって咲く。冷たい朝、地面の熱に温められた空気が、株の周りだけ湯気となって立ちのぼる。
PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
氷点下の朝、この花の周りだけ、湯気が立ちます。
まるで、そこだけ地面が息をしているように。
アイスランドの、地熱で温められた溶岩地帯。
今も地面がほのかに温かいくぼみに、湯気花は咲きます。
暗緑色の小さな葉が、密に重なってクッションを作ります。
その上に、珊瑚色の小さな筒状の花が、いくつも集まって開きます。
湯気花は、地温と外気温の差が大きい初夏の二、三週間だけ花を見せるらしい。午後には湯気も消え、黒い溶岩の窪みに沈む暗緑の葉は苔類や若いSaxifragaと紛れる。古い標本箱に残る「Sileneの矮化株」の数点は、花筒の毛と葉の重なり方から本種を含む可能性がある。
筒状花は派手に見えるが、開口部は小さく、晴れた無風の朝にだけ小型ハナアブが出入りする痕が花粉の筋として残る。夜間には微小な蛾にも合う寸法だが、強風の年は葯が柱頭へ倒れ込み自殖するらしい。株は地下の短い根茎でつながり、温かい割れ目に沿って掌ほどの群落を作る。
南西部の古い羊道案内には、これをgufublóm、すなわち「湯気の花」と呼ぶ記述が散見される。羊飼いは、花の上にだけ白い息が高く立つ朝を、地熱脈の水位や微小な地震の変化と結びつけたのだろう。伝承は予言というより、霜、風向き、硫気の匂いを読む実用的な地誌であった。