
世界で最も乾いた砂漠に、数分だけ咲く花があります。
砂時計花は、高さ5〜9cmほどのクッション状の多年草。銀色の細かな毛に覆われた灰緑色の葉が、地表に低く密に広がる。花は一株にひとつ、白に淡い桃色のさす皿形で、霧が触れる数分間だけ開き、霧が去ると静かに閉じる。
PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
霧が通り過ぎる、数分だけ咲きます。
その数分を逃すと、花はもう閉じています。
世界で最も乾いた砂漠、アタカマ。
海から這い上がる霧が触れる礫地に、砂時計花は現れます。
体は銀色の細かな毛に覆われ、低いクッションのように地面に広がります。
霧が葉に触れると、白い皿形の花が、淡い桃色をのせて開きます。
花を閉じた株は、海霧の届かぬ昼には灰白色の斑として礫面に伏し、遠目にはレカノラ型地衣類か、枯死したクッション植物の芯に見える。葉の銀毛は砂粒を抱き込み、輪郭を消す。標本採集者が花を待たず通過すれば、ここに多年草が生きているとはまず記さないだろう。
開花はカマンチャカが礫を濡らす数分に限られるが、葯は花弁が再び閉じる際に柱頭へ押しつけられる。昆虫を待つ仕組みではなく、湿りで花粉塊がほどける閉鎖的な自家受粉と見るべきである。結実後の種子は霧で粘り、転がらず株元の礫間に貼りつくため、群落は斑状にしか広がらない。
『霧の砂時計』の名は、海岸段丘を横切る漁民や、谷口へ家畜を移す者のあいだで残ったらしい。彼らは雨量計ではなく、夜明けの霧の厚さ、網や毛布の湿り、礫地で皿形の花が開いている長さを見た。長く開く年ほど霧が薄く乾いた年になる、という言い伝えは、開花時間を天候の遅れとして読んだ経験則である。