
標本も、確かな記録も、ほとんど残っていません。
一年の大半を水中で過ごす多年生の沈水植物。冠水が最も深い場所でも、最も長い場所でもなく、二つの水塊が混ざって水の酸性度が一度だけ急に変わる「化学の境目」にだけ花茎を立てる。水位の高低を追っても出現を説明できないため、長く記録が安定しなかった。沈水時は暗いオリーブ色の細い葉を水中に広げ、合流が起きると赤みのある細い茎を水面へ伸ばし、淡い緑白色の蝋質の花をひとつだけ開く。花が空気に触れていられるのは、合流が続くわずか数日。
PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
標本も、確かな記録も、ほとんど残っていません。
この花が現れるのは、水位ではなく、水の質が一度だけ変わる場所だけだからです。
ブラジル北部、ネグロ川。黒い水に沈む森の話です。
一年の多くを水の底で過ごし、姿を見せるのは、ほんの数日。
黒く酸性の水に、支流の澄んだ水が差し込む——その境目の縁にだけ、細い花茎が立ちます。
咲くのは、水が最も深い場所でも、最も長く沈む場所でもありません。