
どこが根で、どこが葉なのか、誰も見分けられません。
露根草は、高さ20cmほどの斜面植物。淡い黄緑色のごく細い葉を低くまばらにつけ、灰白色の節くれだった茎を地面すれすれに這わせる。最大の特徴は根にある。黄土が崩れて地中の根が空気にさらされると、その露出した根の表面だけが緑色に変わり、葉と同じ役割を引き受けて光を集めはじめる。やがて崩れた土が雨で埋め戻されると、緑になった根は再び白い根へと静かに戻っていく。葉と根の境目がこの植物には固定されておらず、地形が変わるたびに器官の役割が入れ替わる。どこが葉でどこが根なのか、見るたびに違って見える。
本編 準備中
PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
どこが根で、どこが葉なのか、誰も見分けられません。
崖が崩れ、土の中の根が空気にさらされると、
その根の表面だけが、ゆっくりと緑に変わります。
中国、黄土高原の侵食峡谷。
むき出しになった黄褐色の急斜面にだけ、露根草は現れます。
緑になった根は、葉と同じように光を集めはじめます。
崩落から二、三日後、灰白色の匍匐茎の節に、葉より短い淡褐色の穂が立つのを見た。花被はほとんど開かず、乾いた午後にだけ葯が裂け、黄土を渡る谷風へ粉のような花粉を預ける。虫の訪れを待つ形ではない。裸地で風を受ける数日間だけ、露根草は静かに花を済ませるらしい。
果実は目立たず、乾くと節のそばで崩れて、黄土粒と見分けにくい微小な種子をこぼす。丸みのある種皮には細かな凹みがあり、湿った崖面に貼りつき、次の雨で泥膜の中へ沈む。発芽は埋まったままでは進まず、新しい崩落で光と空気に触れた粒だけが動き出す。斜面に残る理由は、軽さではなく土と同じふるまいにある。
露出根の緑は長く続かない。皮層細胞は光を受けると急いで葉緑体を整えるが、表面には薄いコルク質の層と乾燥時に閉じる蝋質の膜があり、雨後の短い湿りだけを利用している。採って紙に挟むと数日で根は白く戻り、葉の乏しい匍匐草か、崩れた崖に絡む古根にしか見えない。記録から抜け落ちたのは、その性質そのものだった。