
別々に咲く花が、地の底では一つかもしれません。
遠縁草は、ひび割れた乾いた泥土から立ち上がる高さ20cmほどの草。淡い葉脈の走るオリーブ色のへら形の葉を低く広げ、淡い赤褐色の長い茎の先に、中心の暗い鈍い琥珀色の星形の花をひとつだけつける。地上では一株ずつ遠く離れて見えるのに、地下深くでは古い一本の根が横へ伸び、その第二層から離れた場所に芽を押し上げているらしい。湖岸が後退した年にだけ芽吹き、再び水が戻れば地上の姿は消え、根だけが乾いた泥の下で次の後退を待つ。別々に見える株が、本当はたった一つの個体なのか、誰もまだ確かめられていない。

PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
別々に咲く花が、地の底では一つかもしれません。
誰もまだ、その境目を見たことがありません。
中央アフリカ、チャド湖の東岸。
湖が数キロ退いた年にだけ、ひび割れた泥土が現れます。
遠縁草は、その乾いた灰褐色の地面に点々と芽吹きます。
地上では遠く離れているのに、地下深くでは古い一本の根がつないでいます。
多くの年、遠縁草は花を掲げても痩せたまま終わる。地下の古根から次の芽を送るだけで、群落は増えたように見えて増えていない。だが湖岸の後退が二雨季を越えて続いた年、暗い琥珀色の花の基部に小さな蒴果が残った。訪花が乏しくても自家和合で結ぶらしく、熟した種子は割れ目に落ち、泥が再び閉じるまでそこで休む。
花は目立つ色ではないが、乾いた湖泥の上では鈍い琥珀色が意外に浮く。日中、地表近くを走る小型のハナバチやハエ類が星形の花盤に短く止まり、暗い中心部に沿って体を擦ると考えられる。長い茎は風に耐える高さではなく、割れ目の影を越えて花だけを低い飛行線へ差し出すための長さに見える。
東岸の漁師や牧夫は、遠縁草の距離を水位の記憶として見る。株がまばらに遠くまで出る年ほど、舟を出す水際も家畜を回す湿った草地も遠のくからである。『離れて咲く一つの草』という呼び名は、根の連結を語るだけでなく、湖が退いた距離を人が歩いて測ってきた生活の言葉でもある。