
ひとつの株なのに、地下では正反対のことをしています。
分け根草は、高さ10cmほどの低いクッション状の植物。鈍い青緑色の小さな多肉質の葉を密に重ね、短い茎の先に錆びた橙色の星形の小花をつける。蛇紋岩の砕けた岩屑の上に、淡い灰白色の根を蜘蛛の巣のように広げて張りつく。その根系はひとつの個体の中で二手に分かれていて、片方の根は金属を多く含む岩へ伸びてそれを取り込み、もう片方の根はその金属をかたくなに避けて水だけを吸う。地下に正反対のふるまいをする根を同時に持ちながら、地上ではひとつの静かな株として咲く。

PLATE I
PLATE II
PLATE III
PLATE IV
PLATE V
PLATE VI
PLATE VII
PLATE VIII
ひとつの株なのに、地下では正反対のことをしています。
片方の根は毒を取り込み、片方の根は毒を避けます。
キプロス、トロードス山地の旧銅鉱山。
重金属がしみ込んだ蛇紋岩の、荒れた採掘跡にだけ根を下ろします。
分け根草は、淡い根を岩屑の上に蜘蛛の巣のように広げます。
ある根は金属の岩へ伸び、ある根はそれをかたくなに避けて水だけを吸います。
四月上旬、坑口下の蛇紋岩屑がまだ湿りを保つ朝にだけ、橙色の星形花はよく開いた。花冠の内側には薄い蜜の膜があり、体長数ミリの小型ハナアブ類が低く飛んで株間を渡る。風の強い午後には訪花が途絶えるため、結実は斜面の風裏に偏るらしい。裸地の先駆者というより、春の短い水分窓に合わせた鉱山跡の残存専門種と見るべきである。
乾季に入ると花柄は倒れ、裂けた果実から黒褐色の重い種子が株元へこぼれる。冠毛や翼は見られず、雨滴に叩かれて数十センチ下の岩屑の割れ目へ入るだけで、斜面を越える散布力はほとんどない。このため群落は鉱滓の古い流路や銅分の濃い礫帯に沿って途切れ途切れに続き、隣の谷の同じ岩相には容易に移らなかったと考えられる。
乾いた株は灰白色の根も葉も岩屑と同じ色になり、花のない季節には既知の蛇紋岩性小草本と見分けにくい。採集時に根を洗うと、金属を避ける細根と鉱石へ向かう太い根の配置は崩れ、押し葉ではただの絡んだ根束になる。鉱夫や井戸掘りが『毒石と水の境』として避けた草であっても、博物館の棚では別種の若株として眠った可能性が高い。